「桐箱のようなニッチな事業を、人に胸を張って自慢できる事業にしたい」。福岡県古賀市の増田桐箱店で、25歳で社長に就いた藤井博文さんは、まもなく100年を迎える伝統を軸にしながら、米びつのヒットから海外展開、DX、地域連携までを次々と仕掛けている。
「生まれてから死ぬまで」に寄り添う、日本一の桐箱メーカー
増田桐箱店は1929年創業、まもなく100年を迎える桐箱づくりの専門企業だ。福岡県古賀市を拠点に、北海道から沖縄まで日本全国へ桐箱を届けている。高級品の保管箱やギフト用の桐箱、人間国宝の作品を収める一点ものまで手掛け、年間生産量は100万箱を超えて日本一を誇る。「手作りの職人技」と「工業製品としての大量生産」を両立しているのが強みだ。
桐箱の歴史は室町時代まで遡り、古くはお茶道具や着物の保管に使われてきた。現代ではチョコレートなどのギフト箱としても需要が高まっている。実は桐箱は「生まれてから死ぬまで」私たちの生活に関わる——赤ちゃんのへその緒を保管する箱も、亡くなった際の棺も桐でつくられる。日本各地の良いものや特産品を包んで付加価値を与え、届けることに、桐箱の魅力がある。
25歳で社長に。自社の価値を高めたい思いから始まったプロダクト開発
藤井さんが祖父から「社長にならないか」と言われたのは二十歳そこそこの頃。中小企業経営者の実情を知らず「チャンスだ!」と軽い気持ちで引き受けたが、始めてみると想像以上に大変だった。若くして事業を継いだため社内や取引先の信頼を得るのに苦労し、当時の会社は下請け的な体質が強かった。友人に話しても「桐箱店って何をしているの?」と言われるほど知名度も低い。だからこそ「どうにかして自社の価値を高めたい」と、自社プロダクト開発に挑んだ。
最初に取り組んだのが、桐箱の防虫性・気密性を活かした「米びつ」。累計5万箱以上を販売し、日本一米びつが売れる会社になった。今も生産が追いつかず3か月待ちが続く。この成功を機に、ブックエンドや食パン保存箱、引き出しなど多様な商品が生まれ、「中身が主役」だった桐箱が「自社製品が主役」へと進化した。受注生産型の体質から脱却して計画的な生産が可能になり、繁忙期と閑散期のバランスも整えやすくなった。自社商品がメディアに取り上げられ、社員が仕事に誇りを持てるようになったことも大きい。「社員が家族に自慢できる仕事にする」という就任当初の目標に、少しずつ近づいている。
海外・DX・地域連携。広がり続ける箱の可能性
米びつをはじめとするプロダクトは海外でも人気だ。アメリカではナッツの保存容器、台湾ではお茶やコーヒーの保管容器として、現地のライフスタイルに合った形で広がっている。輸送効率を高める入れ子式設計も功を奏し、ニューヨーク近代美術館でも販売されるなど、伝統技術とデザイン性が評価されている。国内では「和の魅力」、海外では「成長の早いエコな木材のパッケージ」として評価される二面性も強みだ。
DXにも積極的だ。「うちの工場は日本で一番アナログ」と笑いつつ、そのアナログな工場がデジタル化に挑むことで取引先や業界全体を巻き込めると考え、自社開発アプリを顧客にも販売。材料屋とともに業界のDXを進めている。端材を活用した木製リバーシ(オセロ)などSDGsな取り組み、香住丘高校との産学連携、2021年には大川市の家具製造業をM&Aし「大きな箱」まで領域を拡大。さらに全国11か所の刑務所・5か所の福祉事業所と連携し、売り先に近い場所で生産することで輸送コストを抑え、多様な人がものづくりに参加できる仕組みを整えている。
社内では営業一人ひとりが主体的に新規事業を立ち上げ、「勝手に海外で物を売り始める」ほど。藤井さんは「今がうちが一番面白いだろうな」と語る。桐箱という安定した軸を持ちながら、社内はさながら「スタートアップの集合体」だ。
藤井さんに伺いました
1929年創業、まもなく100年を迎える桐箱の専門企業です。古賀市を拠点に全国へ届けていて、年間生産量は100万箱を超えて日本一。人間国宝の作品を収める一点ものから、ギフト箱、量産品まで手掛けます。「手作りの職人技」と「工業製品としての大量生産」を両立しているのが強みですね。
祖父に言われて「チャンスだ!」と軽い気持ちで引き受けたんですが、実際は想像以上に大変でした。若いので信頼を得るのに苦労しましたし、当時は下請け的な体質も強かった。友人に話しても「桐箱店って何の会社?」と言われる状態で。だからこそ「自社の価値を高めたい」と、プロダクト開発に踏み出しました。
はい。防虫性や気密性を活かした米びつが累計5万箱以上売れて、日本一米びつが売れる会社になりました。今も3か月待ちです。これをきっかけに「中身が主役」だった桐箱が「自社製品が主役」に変わって、計画的な生産もできるようになった。社員が家族に自慢できる仕事にしたい、という目標に近づけたのが一番嬉しいですね。
正直、うちの工場は日本で一番アナログかもしれません(笑)。でも、そのアナログな工場がデジタル化に挑めば、取引先や業界全体も一緒に進められる。実際、自社開発のアプリをお客様にも販売して、材料屋さんと一緒にDXを進めています。持続可能なものづくりには変化が不可欠だと思っています。
職人の手を3倍速く動かすのは難しいですが、高付加価値化で売上単価を10倍にすることはできます。店舗什器や猫用ベッド、最近は桐や木材を使った空間デザインの依頼も増えています。全国の伝統工芸品や特産品を入れる桐箱を活かして、観光業や旅館とのコラボなど、挑戦の余地はまだまだ大きいです。
「ものづくりを進化させたい」という意欲を持つ方ですね。うちだけが生き残るのではなく、中身となる商品と共に成長していきたい。その想いに共感してくれる方と、新しいものづくりの未来を切り拓いていけたら嬉しいです。日本の良いものを世界に広める意識を持って、情報を言語化して伝えられる方とも、ぜひ一緒に。
藤井さんに、共感を届ける
25歳で社長に就き、桐箱というニッチな事業を「胸を張って自慢できる仕事」に変えようと、プロダクト・海外・DX・地域連携を次々仕掛けている藤井さん。
まもなく100年を迎える伝統を軸に、社内は「スタートアップの集合体」へと進化し、次の100年に向けて「もっと多くの人を巻き込むものづくり」を目指しているフェーズです。
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